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アカデミー賞直前!『それでも夜は明ける』 町山智浩、デーブ・スペクターイベント付き試写会レポート

映画『それでも夜は明ける』 試写会、シネマート六本木へ。

 

それでも夜は明ける』は南部の農園に売られた自由黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した作品。

本年度アカデミー賞で現在作品賞ほか9部門にノミネートされている。


映画『それでも夜は明ける』予告編 - YouTube

 

作品上映後、映画評論家の町山智浩さんと、放送プロデューサーでタレントのデーブ・スペクターさんが登壇。

町山さん曰くとても歴史的に意義のある映画だという。

 

短いトークイベントだったが情報量が凄かったので、以下ポイントを箇条書きに。

・どの国にも触れられたくない歴史があるが、アメリカの奴隷制度はその中のひとつ。ハリウッドは100年も歴史がありながら、奴隷農場を描いた作品はほとんどない。

・アメリカの奴隷制度をきちんと扱った映画は過去2作品(「マンディンゴ」「ジャンゴ」)しかなく、今作品で史上3作目。

・「シンドラーのリスト」がホロコーストを題材に扱ったように、『それでも夜は明ける』も、今まで避けてきた題材を扱った歴史的に大きな意味を持つ映画。

・原作は1853年発表。約10年後に南北戦争勃発、終戦。故に来年は南北戦争の奴隷解放から150年。大きな区切りのタイミングなので注目されている映画。

・当時は自由黒人という人達が北部に存在し、普通のアメリカ人の生活をしていた。奴隷は高価な値段で売れるため、北部では人さらいが横行していた。

プロデューサーはミズーリ州出身のブラッドピット。ミズーリ北部と南部の州を結びつける位置にあり南北戦争で州の中で分裂して戦った州。親子で殺しあった事例も存在する。

・そのブラピも作中でカナダ人の奴隷解放論者を演じる。カナダは奴隷制度に反対している国だった。

・すごくおいしい役だったのでデーブが「自分でプロデュースして美味しいとこだけもってくのはどうなの?!」

・「ブラピの役はデウス・エクス・マキーナといって映画や小説で本当はやってはいけないこと」と町山さんも苦笑

・プロデューサーとしては「ディパーテッド」のオスカー受賞や「マネーボール」を挙げて優秀だと評価。今作でもスポンサーが見つからない等困難にぶつかりながらも作品を完成させた。

ゼロ・グラビティ」と『それでも夜は明ける』は同じ狙いを持つ映画。両方とも観客に体験をさせる。前者は宇宙を、後者は奴隷を。

町山さんのアカデミー賞作品賞の有力候補は「ゼロ・グラビティ」と『それでも夜は明ける』。ゼロ・グラビティの不安要素は過去SFが作品賞を受賞した実績なし。

ハリウッドは選考人が6,000人くらいいるが、平均年齢が60歳。人気や売上関係なく賞を運営していて、業界受けのいいものが毎年アカデミー賞を獲る。

・本作で助演女優賞にノミネートされている新人女優のルピタ・ニョンゴは凄い演技で、注目を集めている。アメリカのトーク番組でもひっぱりだこ。助演女優賞の大本命。

それでも夜は明ける』は南部ではほとんど公開されていない。今も根強く残る当時の思想。

・南部の住民は政治活動で南部の旗を掲げたりする。南北戦争当時の旗なので奴隷制度肯定の意味を持つ。

・南部の人の中には、歴史修正主義の人も居り奴隷に対して非道な行為はしていないと言い張る人もいる。奴隷に対しての酷い仕打ちとして世間に流れている情報は北部側のプロパガンダだと主張。

・そんな中、本作がアメリカの公立高校の必須映画に。正しい歴史を認識するため。

作中で奴隷の首をつるのに使われていた木は、実際に当時首をつるために使われていた木。墓も本物。

・原作を読んで奮起し北軍に参加した兵士が実在する。エップスの農場に実際に辿り着いた。

・「風と共に去りぬ」はとても有名な作品だが人種問題や奴隷制等の事実を隠蔽した恐ろしい作品。

リヴァプール奴隷貿易で大きくなった町

・原作者は解放された後、自分をさらったものを訴えた。しかしNY(奴隷制度なし)の裁判所からワシントンの裁判所(奴隷制度あり)へ移管されたため実刑にはいたらず。

・原作者はどのようにこの世を去ったのかが明らかになっていない。何者かに殺された可能性が高い。

ローリングストーンズの曲「Brown Sugar」は本作のマイケルファスベンダー演じる農場主の境遇、行為そのものの歌詞である。

  

 

第86回アカデミー賞授賞式が明日に迫るこのタイミングの試写会。トークイベントではオスカーの話題も盛り上がった。

一方作品自体はアメリカの暗部を照らし出す作品。奴隷制度の背景や現在の状況などが詳しく解説された。アメリカという国を考える上での大きな要素をぶつけられるような試写会だった。

 

12 Years a Slave

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12 Years a Slave: A True Story of Betrayal, Kidnap and Slavery (Hesperus Classics)

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